『PERFECT DAYS』情報その4–小田原シネマ館スタッフ小噺– - 小田原シネマ館 | ODAWARA CINEMA
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『PERFECT DAYS』情報その4–小田原シネマ館スタッフ小噺–

『PERFECT DAYS』小田原シネマ館スタッフ小噺

——小田原シネマ館スタッフの一人が、『PERFECT DAYS』とヴィム・ヴェンダース監督の過去作等を関連させつつ僭越ながら長文を失礼いたします。(シネマレターその1その2その3も合わせてお読みください。)——

 
——こんな東京も、こんな生活も、本当はどこにもないのかもしれません。現代の東京があまりに混沌とし騒音にまみれていることは、歩いてみればすぐわかります。ヴィム・ヴェンダース監督はこのようなことを全てわかった上で、平山の暮らしを創り上げたのでしょう。
  ヴェンダース監督が『夢の涯てまでも』(’91)を制作していた1990〜91年、そのドキュメンタリーである『ヴィム・ヴェンダース イン 東京』は、彼が東京を歩く姿を映しています。その中で彼は、現実の東京を映すと悪意のあるものが決して少なくなく映り込んでしまう、ということに触れます。 「平山」という主人公の名前は、ヴェンダース監督が敬愛する小津安二郎監督の作品人物から取られたものです。(ヴェンダース監督は、小津監督への愛を込めたドキュメンタリー『東京画』(’85)や、『東京物語』(‘53)へのタイトルオマージュとして『リスボン物語』(’95)といった作品も制作されています。ちなみに、平山は鎌倉のお菓子を好んでいますが、これは小津監督が北鎌倉の地に眠っているためです。)
 『夢の涯てまでも』では、失明しつつある男が療養のために箱根の旅館を訪れる場面があり、旅館には小津作品を代表する俳優の笠智衆が。ヴェンダース監督にとっての日本的なるものは、ある種、自然の中にある聖域、理想郷として描かれてきました。それが現実の日本を表しているかは焦点ではなく、混沌とした現実に対する拠り所としてそこは存在しているのです。(過度に理想的であるが故に引っ掛かる部分も少なからずありますが、理想との差異に違和感をもった受け手に、現実を考え直す契機を持ちかけているともいえます。)
 起きてから寝るまで、一日のルーティンを描き続けた『PERFECT DAYS』は、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』(’16)を想起させるものでもあります。どちらも、いち労働者の慎ましい生活の優しさ、時間の経過とともに少しずつ揺れていく日常を描きます。 時間はただ漠然と流れていくのではありません。止まっているように見えても、止めようとしても、時間の中では常に何かが動いています。変わっていくものはあまりに多すぎる。ともすれば見過ごされ、あるいは目も当てられず、忘れられてしまうような、変わっていくもの/時間の流れを映し出すのが、映画の一つの役割かもしれません。時間は、単なる時間ではなくなっていきます。
 変化は時に悲しく、しかしながら、必然です。受け入れられなくとも、受け入れていかなければならない。そこに立ち向かう一つの手段が、平山の繰り返す生活なのではないかと思います。平山は、秩序のある東京を、一人小さく、しなやかに守り続けていきます。秩序とは、作り出す端から崩壊が始まっていくものかもしれません。けれども、平山はきっと日常を止めない。平山が保管する写真缶の日付は「2023年10月」頃まであり、これは映画の撮影時期よりも一年ほど先の日付です。平山は未来を生きていきます。その姿は、永く根をはる木のように、観るものを安心させるのです。


<作品概要>
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか
2023年/日本/124分

※ 『PERFECT DAYS』チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。