テリー・ギリアム監督作『フィッシャー・キング』、12/5(木)まで上映中です
当館スタッフが上映作品についての豆知識や思うことを綴るシネマレター、今回は『フィッシャー・キング』のお話です。
テリー・ギリアム監督といえば、モンティ・パイソン時代のアニメーションやテリー・ジョーンズとの共同制作映画に始まり、『ジャバー・ウォッキー』(1977)、青年期三部作とも呼ばれる『バンデットQ』(1981)『バロン』(1988)『未来世紀ブラジル』(1985)や、『ブラザーズ・グリム』(2005)、『12モンキーズ』(1995)、最近では『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(2018)など、数多くの映画を作ってきました。
そんなギリアム監督が、初めて他者の脚本で描いてみせた映画が、『フィッシャー・キング』(1991)です。ギリアム監督は、その比類なき芸術センスと構成力のかたわらで、細部までの凝りのために制作費の大幅超過や制作期間の延長、尺の長さなど、問題児的な一面があります。未完になっている作品もあり、いつも映画作りが難航している印象です。(『バトル・オブ・ブラジル』の書籍なんかは有名ですね。)
そうした中で『フィッシャー・キング』は、汚名返上ではないのですが、他者の脚本で素晴らしくまとめあげ、予算も期限も守って、こんなこともできますよ、と、ある意味で監督の手腕をアピールしたわけです。
他者の脚本といっても、もちろんギリアムらしさ満載です。中世の騎士や、現代ニューヨークとは思えない古城のような建物、薄暗さと煙、配管、ごちゃごちゃとしたパリー(ロビン・ウィリアムズ)の棲み処!とってもギリアムギリアムしております。
〈役柄について・・〉
主演のロビン・ウィリアムズとジェフ・ブリッジスは、ほかのギリアム映画にも出演しています。ブリッジスは監督自ら出演を懇願したのだとか。ブリッジスは『ローズ・イン・タイドランド』(2005)でジャンキーお父さん役、ウィリアムズは『バロン』で月の王役(!)を演じておりました。宇宙にいたんですね。
聖杯伝説は、ギリアム監督が過去に『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975)で扱ってもいました。ギリアム映画では、モンティ・パイソンメンバーが出てくることもしばしばですが、『フィッシャー・キング』には出ていません、残念! ウィリアムズが7人目のパイソンメンバーみたいなもんです。(ちなみに、テリー・ジョーンズ監督作『ミラクル・ニール!』(2015)では、パイソンメンバーと一緒に声の出演もしており、これが日本公開作では遺作となっています。ウィリアムズは犬の吹き替え。多彩です。)
ロビン・ウィリアムズは、もともと即興で舞台に立ったりしていたコメディアンです。彼の生き生きとした動きと笑顔はとてもいいですね。初めて見たとき、こんなに素敵な笑顔を見せる人はほかにいないと思いました。当館で以前上映していた『レナードの朝』(1990)でも、コミカルな動きが素晴らしかったです。
映画の中では人格者の役が多い印象で、人情に篤い学校の先生や医者、夫を演じていることが多いですが、『フィッシャー・キング』では、精神病患者。持ち前の人柄の良さはもちろんのこと、ちょっと危ない、アナーキーでありつつ、時折暗さをみせる、色々な表情で、ウィリアムズのすべてが詰まっています。今作のウィリアムズはまさに、はまり役です。
また、リディア役のアマンダ・プラマーは大好きです。彼女は『パルプ・フィクション』(1994)のハニーバニー役が有名かなと思います。(ほかに、ヴィム・ヴェンダース監督の『ミリオンダラー・ホテル』(2001)等々にも出演しています。)可愛らしさと、ちょっと粗暴で大胆なかっこよさ。『フィッシャー・キング』では、非常に不器用な女性を演じます。回転扉からなかなか出られず、二日に一度は本を買って、本やビデオを棚からガラガラ落としてしまう。固いナッツキャンディを買って、水曜日には餃子を食べる。餃子もうまく掴めずに、落としてしまう。リディアの日々の習慣は、いつ見ても愛らしく感じます。書いたらキリがないのですが、4人で行く中華屋のシーンも何度も観てしまいます。あんなに楽しい食事シーンは他にありません。ウィリアムズなんか、しまいには歌い出してしまう。ちょっと変な人たちが、コミカルに生き生きと、愛でもって描かれています。
それから、リディアと、ウィリアムズ演じるパリーが駅のホームですれ違うシーン。グランド・セントラル・ステーションで、1000人のエキストラを動員し、通勤列車が到着する朝6時10分、二日間にわたって撮影されたものだというから驚きです。ギリアム監督のアドリブなんだとか(日本公開時のパンフレット参照)。世界がリディアとパリーのためだけの舞台になったみたいで、夢のようです。
加えてなんと、グランド・セントラル・ステーションのシーンでは、トム・ウェイツの姿も! また、ミュージカルなどで活躍の、マイケル・ジェッターも良い役です。脇役も見逃せませんね。
〈ギリアム作品の魅力・・〉
テリー・ギリアム監督の魅力はたくさんあり、目に入るドキドキするようなイメージの鮮烈さや音楽はもちろんですが、「死」を確実に描いているところがその一つではないかと思います。ギリアム映画は、ファンタジーの要素がありつつ、しかし決してファンタジーではありません。現実が、映画の底を這って動きません。『フィッシャー・キング』は、彼の映画の中では比較的ハッピーエンドを辿っているわけですが、やはりそうとは言い切れない部分があります。さまざまな社会問題の風刺や、暴力や血の描き方だったり。そもそも、ジャック(ジェフ・ブリッジス)の言葉がなければ、パリーの妻は亡くならなかったかもしれず、二人の友情が芽生えるなんてことはなかったわけです。(ジャックの直接的な責任ではありませんが。)パリーばかりが、大切なものを失って傷ついているように思えてしまう。リディアやジャックらといくら幸せになろうが、傷は残り続けるでしょう。ジャックの「償い」のような行為も、本当はすごく利己的なものでしょう。物語はたくさんの偶然でできていて、二人が出会わなければ、起こらなかったことの数々があり、同時にまた、起こったことの数々があります。簡単に「いい話だった」で終わってしまえないところに、心を掴まされるのでしょうか。
つい最近の11月22日は、テリー・ギリアム監督84歳の誕生日! ギリアム監督は、ジョニー・デップ主演で新作を制作中とのことで、非常に楽しみです(『ドン・キホーテ』の時のように撮影現場に来ない、なんてことがなかったらいいのですが……)。
当館内ロビーには、スタッフによるイラスト展示と、公開時のパンフレットを掲示している小さいコーナーもあります。ぜひ、合わせてご覧ください。
ギリアム監督の映画体験をこの機会にぜひ!
【作品情報】
1991年/137分/アメリカ
メインビジュアル(右): © 1991 TRISTAR PICTURES, INC ALL RIGHTS RESERVED.
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※ムビチケはご利用いただけません。
上映:小田原シネマ館