平山は長距離を移動せず、同じ場所にとどまり続けます。周囲と自分が、その中で揺れていく。しかし、彼の生活にもヴィム・ヴェンダース作品の真髄ともいえるロードムービー的要素が垣間見えます。
まず、車と音楽。多くのヴェンダース作品には乗り物が登場し、音楽が旅を彩ります。劇中で流れる「Perfect Day」は、ルー・リードの曲。ヴェンダース監督作『ベルリン・天使の詩』(’87)は有名ですが、続編の『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』(‘93)には、なんとリード本人が登場する一幕も。
さらに、カメラと写真。ヴェンダース作品を観ると、いつも写真を撮りたくなります。現実は認識した瞬間に過去になっていきますが、それを手に取る形で見られるのが写真の面白さの一つでしょうか。今を撮っているのに、それはもう過去なのです。現実と写真は、どこかずれているかもしれない。それでも、今を確かめ、また、過去をとどめるために、人は写真を撮り続けます。
それから、明確な起承転結がないことも特長です。要約を拒みます。
また、ニコが読むパトリシア・ハイスミス『11の物語』。ハイスミスは、ヴェンダース監督作『アメリカの友人』(’77)の原作者でしたが、ここで再登場。
『PERFECT DAYS』を観て、ヴェンダース監督のロードムービーが気になった方は、ぜひ初期三部作『都会のアリス』(’73)『まわり道』(’75)『さすらい』(’76)を!
<作品概要>
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか
2023年/日本/124分
※ 『PERFECT DAYS』チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。