k.terai - 小田原シネマ館 | ODAWARA CINEMA
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小田原シネマ館スタッフ 映画の話『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』画像

スタッフの映画話『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』当館にて10/31(木)まで上映中!  『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)といえば、ヴィム・ヴェンダース監督作品のうちで⻑らく興行収入のトップを飾っていた映画でした。その記録が今年になって、役所広司主演の『PERFECT DAYS』(2023)に抜かれたことは記憶に新しいです。  最近では、ヴェンダース監督といえば『PERFECT DAYS』の名がよく挙がります。同作品でヴェンダース監督を知った、という方もいるでしょう。そんな中で、『PERFECT DAYS』が代表作とは思ってほしくない、といってはいけないのかもしれませんが、観てもらいたいヴェンダース監督映画はたくさんあるのです。  今回は、当館で 31 日まで上映中の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のお話です。  さて、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は現在のキューバ共和国が舞台のドキュメンタリー映画です。ドキュメンタリーといっても、説明じみたインタビューなんかは行われません。キューバに生きる人々が、自然に口を開いた瞬間をカメラに収めたといった感じでしょうか。ドキュメンタリーというジャンルに属するのではなく、もっと広く、映像作品として確かな美しい魅力を放ちます。ドキュメンタリーといえばフランスのニコラ・フィリベール監督も大好きなのですが、通じるところがあるのではないかと思います。時間の流れをカットすることなく、静かにゆっくりとそのままの形で切り取っていく。カメラを回す中の一人には、ヴェンダース監督とともに映画を作り続けてきたロビー・ミューラーがいます。言葉のない場面も多く、キューバの色彩豊かな風景は見ていて楽しいです。  ただ、言葉で多くを説明しないということは、語らないということと同義ではありません。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は、当時差別や貧窮の中にあった人々の娯楽施設でもあったといいます。映画の中では、革命の象徴であるフィデル・カストロやチェ・ゲバラの肖像が見えることも。  キューバは、歴史の中で多くの革命を繰り返してきました。それが今現在にわたっても人々の記憶に大きく刻まれ、続いています。彼らの生活は革命とともにあります。スペインによる征服に始まり、アメリカによる植⺠地化、ロシアとの関係も日々動いています。アメリカとの関係は、オバマ政権時代に一時回復しましたが、トランプ政権になって再度悪化、バイデン政権でまた回復したかどうかという様子で、安定が見えません。次の大統領選にも左右されるでしょう。キューバには独立後も米軍基地が残され、特に現在ではグアンタナモ基地での人権侵害が大きな問題となっています。さらに、経済的にはロシアなど他国からの経済援助に大きく頼っている状況です。  随分簡単に説明してしまいましたが、キューバは、色鮮やかな街並みの裏にこうした背景を持っている、非常にコントラストの大きい国なのです。  とはいえ本作はなんといっても音楽映画です。冒頭で演奏されるコンパイ・セグンドの「Chan Chan」は何度聞いても鳥肌が立ってしまいます。渋い声、明るいメロディーに予想外の情熱的な歌詞が耳に残ります。サイドカーに息子のヨアキムを乗せて現れるライ・クーダーも良いです。緑とオレンジの服装が街に映えています。(余談ですが、サイドカーといえば、ヴェンダース監督の『さすらい』(1976)で、主演のリュディガー・フォーグラーが乗っていたのを思い出して嬉しくなります。)コンサートのシーンでは映像がモノクロのようになり、光を照り返す一人一人の皮膚が綺麗です。とにかく一人一人がかっこいいのです。  その中でも、イブライム・フェレールの表情が素敵だなと思いました。フェレールは笑顔を見せる場面が多いのですが、最終場面において、聖ラサロの杖の話のすぐ後に一瞬見せる影のある表情が強く印象に残っています。  ヴェンダース監督の映画は、観ていると守られているような感覚に包まれるのですが、それだけではなくて、しっかりと、重いものでこちらを殴ってくるようなところがあると思います。そういうところがとても好きです。  最新のドキュメンタリー作品には、今年の6月に日本公開された『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』があります。こちらは、『ベルリン、天使の詩』(1987)のような雰囲気があって大変良かったです。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を観たらぜひ、他の作品も観てみてくださいね。 <おまけ>  当館内には、劇場スタッフが描いたイブライム・フェレールのイラスト展示もございます。ぜひ、ご来館の際にはご覧になってください。 <作品概要> BUENA VISTA SOCIAL CLUB 1999/ドイツ・アメリカ/カラー/ビスタ/105分 出演:ライ・クーダー、イブライム・フェレール、ルベーン・ゴンザレス、オマーラ・ポルトゥオンド、エリアデス・オチョア © Wim Wenders Stiftung 2014 上映:小田原シネマ館 ※ チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。 ※ムビチケはご利用いただけません。

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『PERFECT DAYS』小田原シネマ館スタッフ小噺

『PERFECT DAYS』情報その4–小田原シネマ館スタッフ小噺–

——小田原シネマ館スタッフの一人が、『PERFECT DAYS』とヴィム・ヴェンダース監督の過去作等を関連させつつ僭越ながら長文を失礼いたします。(シネマレターその1・その2・その3も合わせてお読みください。)——   ——こんな東京も、こんな生活も、本当はどこにもないのかもしれません。現代の東京があまりに混沌とし騒音にまみれていることは、歩いてみればすぐわかります。ヴィム・ヴェンダース監督はこのようなことを全てわかった上で、平山の暮らしを創り上げたのでしょう。   ヴェンダース監督が『夢の涯てまでも』(’91)を制作していた1990〜91年、そのドキュメンタリーである『ヴィム・ヴェンダース イン 東京』は、彼が東京を歩く姿を映しています。その中で彼は、現実の東京を映すと悪意のあるものが決して少なくなく映り込んでしまう、ということに触れます。 「平山」という主人公の名前は、ヴェンダース監督が敬愛する小津安二郎監督の作品人物から取られたものです。(ヴェンダース監督は、小津監督への愛を込めたドキュメンタリー『東京画』(’85)や、『東京物語』(‘53)へのタイトルオマージュとして『リスボン物語』(’95)といった作品も制作されています。ちなみに、平山は鎌倉のお菓子を好んでいますが、これは小津監督が北鎌倉の地に眠っているためです。)  『夢の涯てまでも』では、失明しつつある男が療養のために箱根の旅館を訪れる場面があり、旅館には小津作品を代表する俳優の笠智衆が。ヴェンダース監督にとっての日本的なるものは、ある種、自然の中にある聖域、理想郷として描かれてきました。それが現実の日本を表しているかは焦点ではなく、混沌とした現実に対する拠り所としてそこは存在しているのです。(過度に理想的であるが故に引っ掛かる部分も少なからずありますが、理想との差異に違和感をもった受け手に、現実を考え直す契機を持ちかけているともいえます。)  起きてから寝るまで、一日のルーティンを描き続けた『PERFECT DAYS』は、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』(’16)を想起させるものでもあります。どちらも、いち労働者の慎ましい生活の優しさ、時間の経過とともに少しずつ揺れていく日常を描きます。 時間はただ漠然と流れていくのではありません。止まっているように見えても、止めようとしても、時間の中では常に何かが動いています。変わっていくものはあまりに多すぎる。ともすれば見過ごされ、あるいは目も当てられず、忘れられてしまうような、変わっていくもの/時間の流れを映し出すのが、映画の一つの役割かもしれません。時間は、単なる時間ではなくなっていきます。  変化は時に悲しく、しかしながら、必然です。受け入れられなくとも、受け入れていかなければならない。そこに立ち向かう一つの手段が、平山の繰り返す生活なのではないかと思います。平山は、秩序のある東京を、一人小さく、しなやかに守り続けていきます。秩序とは、作り出す端から崩壊が始まっていくものかもしれません。けれども、平山はきっと日常を止めない。平山が保管する写真缶の日付は「2023年10月」頃まであり、これは映画の撮影時期よりも一年ほど先の日付です。平山は未来を生きていきます。その姿は、永く根をはる木のように、観るものを安心させるのです。 <作品概要> 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか 2023年/日本/124分 ※ 『PERFECT DAYS』チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。

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『PERFECT DAYS』情報その3–小田原シネマ館スタッフアート展示のお知らせ–

劇場内には小田原シネマ館スタッフ作成のイラストと切り絵、劇中写真を使ったコラージュを展示しております。鑑賞に合わせてご覧ください。(コラージュは劇場に来てのお楽しみ!ご来場お待ちしております。) <作品概要> 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか 2023年/日本/124分 ※ 『PERFECT DAYS』チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。

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『PERFECT DAYS』情報その2–小田原シネマ館スタッフおすすめ鑑賞ポイント–

 平山は長距離を移動せず、同じ場所にとどまり続けます。周囲と自分が、その中で揺れていく。しかし、彼の生活にもヴィム・ヴェンダース作品の真髄ともいえるロードムービー的要素が垣間見えます。  まず、車と音楽。多くのヴェンダース作品には乗り物が登場し、音楽が旅を彩ります。劇中で流れる「Perfect Day」は、ルー・リードの曲。ヴェンダース監督作『ベルリン・天使の詩』(’87)は有名ですが、続編の『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』(‘93)には、なんとリード本人が登場する一幕も。  さらに、カメラと写真。ヴェンダース作品を観ると、いつも写真を撮りたくなります。現実は認識した瞬間に過去になっていきますが、それを手に取る形で見られるのが写真の面白さの一つでしょうか。今を撮っているのに、それはもう過去なのです。現実と写真は、どこかずれているかもしれない。それでも、今を確かめ、また、過去をとどめるために、人は写真を撮り続けます。  それから、明確な起承転結がないことも特長です。要約を拒みます。  また、ニコが読むパトリシア・ハイスミス『11の物語』。ハイスミスは、ヴェンダース監督作『アメリカの友人』(’77)の原作者でしたが、ここで再登場。   『PERFECT DAYS』を観て、ヴェンダース監督のロードムービーが気になった方は、ぜひ初期三部作『都会のアリス』(’73)『まわり道』(’75)『さすらい』(’76)を! <作品概要> 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか 2023年/日本/124分 ※ 『PERFECT DAYS』チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。

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