k.terai - 小田原シネマ館 | ODAWARA CINEMA
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【舞台挨拶レポ】『ドーバーばばぁ2 〜つなぐ〜』

中島久枝監督作『ドーバーばばぁ2 〜つなぐ〜』舞台挨拶の模様をお届け! 1/25(土)14:40~の回上映後、当館にて『ドーバーばばぁ2 〜つなぐ〜』舞台挨拶が行われました。 当日の登壇者は中島久枝監督、そして、ドーバー海峡に挑んだチーム織姫の大河内二三子さん、原田京子さん、田村里江さん、野田照美さん、中田律子さん。野田さんと中田さんは客席から参加されました。 当日のお客さんは30名。鑑賞を終えた会場内も一つの遠泳チームに加わったような気持ちで、明るいお人柄の皆さんの登場とともに賑やかな舞台挨拶になりました。 〈制作に込められた想い・・〉 今作は、前作『ドーバーばばぁ 織姫たちの挑戦』から13年の月日が流れています。本当は10年目で何かやろうと思っていたそうですが、新型コロナウイルスの影響により3年間延期。織姫たち個人も、それぞれ家庭や病などの問題に苛まれました。 そして今回、新しく若いメンバーも加わり、81〜20歳、「ばばぁ率50%」の『ドーバーばばぁ2』が生まれました。 映画は2時間半超えの大作。中島監督ご自身も、「長すぎたのではないか」と心残りに思われていたそう。 しかし、「これ以上縮められないというところまで、フィルムに収めてもらって本当に感動している」と原田さんは言います。 映画制作の話はまず、チームのリーダーである大河内さんの元に届きました。 大河内さんは、はじめに中島監督から「自分のやっていることを全て、記録にした方がいい」と言われた際、「(他の人は)興味ないんじゃないの?」と思っていたそう。 生活そのままを映画にして、はたして面白いのかと。 けれども、やがて、中島監督が来るときだけは家の掃除もせず、ありのままの姿を撮影してもらおうと覚悟を決めました。大河内さんは、映画の中で「自分自身の10何年間のすべてを晒している」と言います。 一切飾り立てることなく、実直に海に挑んだものたちの姿が切り取られています。 田村さんは、海の過酷さを語ります。 「フィルムの中だけを観ていると、あのくらいなら私も泳げるわ、と思うかもしれない。でも、実際には大潮で流れがとても速く流されそうになる」 そうした大変さの中で、「『〜つなぐ〜』とタイトルにもあるように、繋いだこと自体がすごいことで、完泳できてよかった」と。 〈織姫たちの普段や今後、舞台裏話・・〉 ここで、お客さんからの質問の一部を紹介します。 「練習はどこでやっているの?」 ——「スイミングスクールでレッスン。自主練はせず、多いときで1500m泳ぐ」 「ドーバーばばぁたちの次はあるの?」 ——「今後は、なるべく温かい海で、無理のない遠泳を続けるつもり」 また、お客さんから「家庭や環境の変化を乗り越えて泳ぎきった姿に感動した」との感想もいただきました。(ちなみに、上映後に回収したアンケートでは、「上映時間の長さは気にならなかった」という方がほとんどでした。) ドーバー海峡横断は、フランス、イギリス、と国境を越えて行われました。しかし、入国審査はしていなかったのだとか。そのため、密入国者と捉えられる事態にも(!) 入国審査をしていないわけですから、全員が岸に上がることはできません。泳いで岸に辿り着いた代表者は、1人5分ほどの限られた滞在時間で、みんなのために海岸の石を水着のお尻に入れて持ち帰ります。そうしてまた、次の人にバトンを繋いでいくのです。 帰りの入管でも30分近く足止めされてしまったのだそう。泳ぎ以外の部分も過酷です。 中島監督と原田さん 田村さんと大河内さん ご登壇・ご参加くださった皆さま、誠にありがとうございました。 ドーバーばばぁ、まだまだ上映中! 上映は2/6(木)まで。観ると元気をもらえますよ。寒さが続きますが、ご来館お待ちしています!

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【舞台挨拶レポ】『幽霊はわがままな夢を見る』

グ スーヨン監督作『幽霊はわがままな夢を見る』舞台挨拶の模様をお届け! 先日 1/11(土)10:30~の回上映後、当館にて『幽霊はわがままな夢を見る』舞台挨拶が開催されました。当日は、グ スーヨン監督・栃木光信プロデューサーにお越しいただきました! また、舞台挨拶後にはサイン会も。 当日ご参加のお客さんは 13 名。一人一人と目を合わせられる程のとても近い距離感で、グ監督と栃木プロデューサーにお話いただきました。 当館ロビーにて。舞台挨拶後、ポスターにお二人のサインを頂戴しました! 〈お二人のお仕事について・・〉 舞台挨拶はまず、お二人の自己紹介から。 グ監督は、これまでに映画や数々のテレビ CM などを手がけていらっしゃいます。ケビン・コスナーさん出演のサントリービールや、内田有紀さんのカルピスウォーターの CM、また、TBC の「私、脱いでもすごいんです」というセリフは当時大きな話題に。栃木プロデューサーは、「奇跡体験!アンビリバボー」「ザ!世界仰天ニュース」などの有名番組制作に当初から携わっていらっしゃる方。 そんなお二人が作りあげたのが、『幽霊はわがままな夢を見る』です。 〈舞台裏話・・〉 映画の舞台は、山口県下関。グ監督ご自身も下関がご出身で、同じく下関ご出身の深町友里恵さんを主演に迎え、下関で撮影されました。当日ご来館いただいたお客さんの中にも、下関を訪れたことのある方が何人か見えました。 作中で扱われるのは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)による「耳なし芳一」の怪談。「耳なし芳一」は皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが、その舞台が下関だったとは! 芳一が居たとされているのが、山口県にある阿弥陀寺。現在は、その後身である赤間神宮に「芳一堂」が構えられ、映画にはこの赤間神宮が登場します。 加えて、下関は平家一門が滅亡した壇ノ浦の所在地でもあり、赤間神宮には平家の墓が並んでいます。グ監督は霊感をお持ちでないとのことでしたが、それでも恐怖を覚えるほどの佇まいだったとか……。さらに、元々「耳なし芳一」の朗読をなさっていて、本作で芳一役を務めた佐野史郎さん。佐野さんは赤間神宮を訪れた際、神主にお名前を間違えられたことがきっかけで体調を崩したことがあるのだそう……。赤間神宮、恐るべし。 撮影中の様子も聞かせていただきました。 怖〜いスポンサー役・南海キャンディーズのしずちゃんこと、山崎静代さん。グ監督によると、「しずちゃんは、しずちゃんだった。」とのことで、普段見るそのままの魅力で出演なさったそう。会場からは笑いの声が聞こえました。ちなみに、しずちゃんのみ、東京での撮影だったようです。 〈お客さんからの質問・・〉 お客さんの中には、グ監督の映画を全て観ているという方もいらっしゃいました! グ監督の初期は、『幽霊はわがままな夢を見る』に比べると文字どおり血の気が多く、作風の変化について質問が。これについてグ監督からは、「歳をとった」「血の表現はお金がかかる……」などの率直な回答をいただきました。(ちなみに、グ監督は最近料理に凝ってらっしゃるのだとか。) 同じ監督作を順に観て、変化や不変の要素を感じとるのは楽しいですよね。監督に直接質問をできる機会は貴重です。 〈お二人からのお言葉・・〉 というわけで、『幽霊はわがままな夢を見る』は下関ムービーな訳でありますが、ご出身が東京の栃木プロデューサーは、皆が故郷に対して文句を言いつつも愛しているような光景を羨ましく感じるのだそう。また、映画館が閉館を続ける中での当館の開館については、意義あることであり、「皆さんが映画文化を担っているのだと思ってこれからも通い続けてほしい」とのありがたいお言葉をいただきました。 グ監督は、ジャームッシュやカウリスマキ監督らがお好きなために「伏線回収をしない」やり方で制作に挑んでいて、さらには、「売れそうなものを作ったとしても売れるかわからない。なら、最初から好きなものを作っちゃおう!」とおっしゃる姿勢がとても素敵でした。 登壇中のお二人。 お二人とも、ご登壇いただき誠にありがとうございました。ご参加された皆さまも、ありがとうございました。 \\『幽霊はわがままな夢を見る』1/23(木)まで上映中! // 当館ではまだまだ上映中です。この機会にぜひ劇場で。お待ちしております!

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フィッシャー・キングシネマレターアイキャッチ

〈小田原シネマ館スタッフ映画話〉『フィッシャー・キング』について

テリー・ギリアム監督作『フィッシャー・キング』、12/5(木)まで上映中です  当館スタッフが上映作品についての豆知識や思うことを綴るシネマレター、今回は『フィッシャー・キング』のお話です。    テリー・ギリアム監督といえば、モンティ・パイソン時代のアニメーションやテリー・ジョーンズとの共同制作映画に始まり、『ジャバー・ウォッキー』(1977)、青年期三部作とも呼ばれる『バンデットQ』(1981)『バロン』(1988)『未来世紀ブラジル』(1985)や、『ブラザーズ・グリム』(2005)、『12モンキーズ』(1995)、最近では『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(2018)など、数多くの映画を作ってきました。  そんなギリアム監督が、初めて他者の脚本で描いてみせた映画が、『フィッシャー・キング』(1991)です。ギリアム監督は、その比類なき芸術センスと構成力のかたわらで、細部までの凝りのために制作費の大幅超過や制作期間の延長、尺の長さなど、問題児的な一面があります。未完になっている作品もあり、いつも映画作りが難航している印象です。(『バトル・オブ・ブラジル』の書籍なんかは有名ですね。)  そうした中で『フィッシャー・キング』は、汚名返上ではないのですが、他者の脚本で素晴らしくまとめあげ、予算も期限も守って、こんなこともできますよ、と、ある意味で監督の手腕をアピールしたわけです。  他者の脚本といっても、もちろんギリアムらしさ満載です。中世の騎士や、現代ニューヨークとは思えない古城のような建物、薄暗さと煙、配管、ごちゃごちゃとしたパリー(ロビン・ウィリアムズ)の棲み処!とってもギリアムギリアムしております。 〈役柄について・・〉  主演のロビン・ウィリアムズとジェフ・ブリッジスは、ほかのギリアム映画にも出演しています。ブリッジスは監督自ら出演を懇願したのだとか。ブリッジスは『ローズ・イン・タイドランド』(2005)でジャンキーお父さん役、ウィリアムズは『バロン』で月の王役(!)を演じておりました。宇宙にいたんですね。  聖杯伝説は、ギリアム監督が過去に『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975)で扱ってもいました。ギリアム映画では、モンティ・パイソンメンバーが出てくることもしばしばですが、『フィッシャー・キング』には出ていません、残念! ウィリアムズが7人目のパイソンメンバーみたいなもんです。(ちなみに、テリー・ジョーンズ監督作『ミラクル・ニール!』(2015)では、パイソンメンバーと一緒に声の出演もしており、これが日本公開作では遺作となっています。ウィリアムズは犬の吹き替え。多彩です。)  ロビン・ウィリアムズは、もともと即興で舞台に立ったりしていたコメディアンです。彼の生き生きとした動きと笑顔はとてもいいですね。初めて見たとき、こんなに素敵な笑顔を見せる人はほかにいないと思いました。当館で以前上映していた『レナードの朝』(1990)でも、コミカルな動きが素晴らしかったです。  映画の中では人格者の役が多い印象で、人情に篤い学校の先生や医者、夫を演じていることが多いですが、『フィッシャー・キング』では、精神病患者。持ち前の人柄の良さはもちろんのこと、ちょっと危ない、アナーキーでありつつ、時折暗さをみせる、色々な表情で、ウィリアムズのすべてが詰まっています。今作のウィリアムズはまさに、はまり役です。  また、リディア役のアマンダ・プラマーは大好きです。彼女は『パルプ・フィクション』(1994)のハニーバニー役が有名かなと思います。(ほかに、ヴィム・ヴェンダース監督の『ミリオンダラー・ホテル』(2001)等々にも出演しています。)可愛らしさと、ちょっと粗暴で大胆なかっこよさ。『フィッシャー・キング』では、非常に不器用な女性を演じます。回転扉からなかなか出られず、二日に一度は本を買って、本やビデオを棚からガラガラ落としてしまう。固いナッツキャンディを買って、水曜日には餃子を食べる。餃子もうまく掴めずに、落としてしまう。リディアの日々の習慣は、いつ見ても愛らしく感じます。書いたらキリがないのですが、4人で行く中華屋のシーンも何度も観てしまいます。あんなに楽しい食事シーンは他にありません。ウィリアムズなんか、しまいには歌い出してしまう。ちょっと変な人たちが、コミカルに生き生きと、愛でもって描かれています。  それから、リディアと、ウィリアムズ演じるパリーが駅のホームですれ違うシーン。グランド・セントラル・ステーションで、1000人のエキストラを動員し、通勤列車が到着する朝6時10分、二日間にわたって撮影されたものだというから驚きです。ギリアム監督のアドリブなんだとか(日本公開時のパンフレット参照)。世界がリディアとパリーのためだけの舞台になったみたいで、夢のようです。    加えてなんと、グランド・セントラル・ステーションのシーンでは、トム・ウェイツの姿も! また、ミュージカルなどで活躍の、マイケル・ジェッターも良い役です。脇役も見逃せませんね。 〈ギリアム作品の魅力・・〉  テリー・ギリアム監督の魅力はたくさんあり、目に入るドキドキするようなイメージの鮮烈さや音楽はもちろんですが、「死」を確実に描いているところがその一つではないかと思います。ギリアム映画は、ファンタジーの要素がありつつ、しかし決してファンタジーではありません。現実が、映画の底を這って動きません。『フィッシャー・キング』は、彼の映画の中では比較的ハッピーエンドを辿っているわけですが、やはりそうとは言い切れない部分があります。さまざまな社会問題の風刺や、暴力や血の描き方だったり。そもそも、ジャック(ジェフ・ブリッジス)の言葉がなければ、パリーの妻は亡くならなかったかもしれず、二人の友情が芽生えるなんてことはなかったわけです。(ジャックの直接的な責任ではありませんが。)パリーばかりが、大切なものを失って傷ついているように思えてしまう。リディアやジャックらといくら幸せになろうが、傷は残り続けるでしょう。ジャックの「償い」のような行為も、本当はすごく利己的なものでしょう。物語はたくさんの偶然でできていて、二人が出会わなければ、起こらなかったことの数々があり、同時にまた、起こったことの数々があります。簡単に「いい話だった」で終わってしまえないところに、心を掴まされるのでしょうか。  つい最近の11月22日は、テリー・ギリアム監督84歳の誕生日! ギリアム監督は、ジョニー・デップ主演で新作を制作中とのことで、非常に楽しみです(『ドン・キホーテ』の時のように撮影現場に来ない、なんてことがなかったらいいのですが……)。  当館内ロビーには、スタッフによるイラスト展示と、公開時のパンフレットを掲示している小さいコーナーもあります。ぜひ、合わせてご覧ください。  ギリアム監督の映画体験をこの機会にぜひ! 【作品情報】 1991年/137分/アメリカ メインビジュアル(右): © 1991 TRISTAR PICTURES, INC ALL RIGHTS RESERVED. ※ チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。 ※オンラインはクレジットカードのみ、劇場窓口は現金のみとなってございます。 ※ムビチケはご利用いただけません。 上映:小田原シネマ館

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小田原シネマ館スタッフ 映画の話『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』画像

スタッフの映画話『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』当館にて10/31(木)まで上映中!  『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)といえば、ヴィム・ヴェンダース監督作品のうちで⻑らく興行収入のトップを飾っていた映画でした。その記録が今年になって、役所広司主演の『PERFECT DAYS』(2023)に抜かれたことは記憶に新しいです。  最近では、ヴェンダース監督といえば『PERFECT DAYS』の名がよく挙がります。同作品でヴェンダース監督を知った、という方もいるでしょう。そんな中で、『PERFECT DAYS』が代表作とは思ってほしくない、といってはいけないのかもしれませんが、観てもらいたいヴェンダース監督映画はたくさんあるのです。  今回は、当館で 31 日まで上映中の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のお話です。  さて、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は現在のキューバ共和国が舞台のドキュメンタリー映画です。ドキュメンタリーといっても、説明じみたインタビューなんかは行われません。キューバに生きる人々が、自然に口を開いた瞬間をカメラに収めたといった感じでしょうか。ドキュメンタリーというジャンルに属するのではなく、もっと広く、映像作品として確かな美しい魅力を放ちます。ドキュメンタリーといえばフランスのニコラ・フィリベール監督も大好きなのですが、通じるところがあるのではないかと思います。時間の流れをカットすることなく、静かにゆっくりとそのままの形で切り取っていく。カメラを回す中の一人には、ヴェンダース監督とともに映画を作り続けてきたロビー・ミューラーがいます。言葉のない場面も多く、キューバの色彩豊かな風景は見ていて楽しいです。  ただ、言葉で多くを説明しないということは、語らないということと同義ではありません。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は、当時差別や貧窮の中にあった人々の娯楽施設でもあったといいます。映画の中では、革命の象徴であるフィデル・カストロやチェ・ゲバラの肖像が見えることも。  キューバは、歴史の中で多くの革命を繰り返してきました。それが今現在にわたっても人々の記憶に大きく刻まれ、続いています。彼らの生活は革命とともにあります。スペインによる征服に始まり、アメリカによる植⺠地化、ロシアとの関係も日々動いています。アメリカとの関係は、オバマ政権時代に一時回復しましたが、トランプ政権になって再度悪化、バイデン政権でまた回復したかどうかという様子で、安定が見えません。次の大統領選にも左右されるでしょう。キューバには独立後も米軍基地が残され、特に現在ではグアンタナモ基地での人権侵害が大きな問題となっています。さらに、経済的にはロシアなど他国からの経済援助に大きく頼っている状況です。  随分簡単に説明してしまいましたが、キューバは、色鮮やかな街並みの裏にこうした背景を持っている、非常にコントラストの大きい国なのです。  とはいえ本作はなんといっても音楽映画です。冒頭で演奏されるコンパイ・セグンドの「Chan Chan」は何度聞いても鳥肌が立ってしまいます。渋い声、明るいメロディーに予想外の情熱的な歌詞が耳に残ります。サイドカーに息子のヨアキムを乗せて現れるライ・クーダーも良いです。緑とオレンジの服装が街に映えています。(余談ですが、サイドカーといえば、ヴェンダース監督の『さすらい』(1976)で、主演のリュディガー・フォーグラーが乗っていたのを思い出して嬉しくなります。)コンサートのシーンでは映像がモノクロのようになり、光を照り返す一人一人の皮膚が綺麗です。とにかく一人一人がかっこいいのです。  その中でも、イブライム・フェレールの表情が素敵だなと思いました。フェレールは笑顔を見せる場面が多いのですが、最終場面において、聖ラサロの杖の話のすぐ後に一瞬見せる影のある表情が強く印象に残っています。  ヴェンダース監督の映画は、観ていると守られているような感覚に包まれるのですが、それだけではなくて、しっかりと、重いものでこちらを殴ってくるようなところがあると思います。そういうところがとても好きです。  最新のドキュメンタリー作品には、今年の6月に日本公開された『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』があります。こちらは、『ベルリン、天使の詩』(1987)のような雰囲気があって大変良かったです。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を観たらぜひ、他の作品も観てみてくださいね。 <おまけ>  当館内には、劇場スタッフが描いたイブライム・フェレールのイラスト展示もございます。ぜひ、ご来館の際にはご覧になってください。 <作品概要> BUENA VISTA SOCIAL CLUB 1999/ドイツ・アメリカ/カラー/ビスタ/105分 出演:ライ・クーダー、イブライム・フェレール、ルベーン・ゴンザレス、オマーラ・ポルトゥオンド、エリアデス・オチョア © Wim Wenders Stiftung 2014 上映:小田原シネマ館 ※ チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。 ※ムビチケはご利用いただけません。

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『PERFECT DAYS』小田原シネマ館スタッフ小噺

『PERFECT DAYS』情報その4–小田原シネマ館スタッフ小噺–

——小田原シネマ館スタッフの一人が、『PERFECT DAYS』とヴィム・ヴェンダース監督の過去作等を関連させつつ僭越ながら長文を失礼いたします。(シネマレターその1・その2・その3も合わせてお読みください。)——   ——こんな東京も、こんな生活も、本当はどこにもないのかもしれません。現代の東京があまりに混沌とし騒音にまみれていることは、歩いてみればすぐわかります。ヴィム・ヴェンダース監督はこのようなことを全てわかった上で、平山の暮らしを創り上げたのでしょう。   ヴェンダース監督が『夢の涯てまでも』(’91)を制作していた1990〜91年、そのドキュメンタリーである『ヴィム・ヴェンダース イン 東京』は、彼が東京を歩く姿を映しています。その中で彼は、現実の東京を映すと悪意のあるものが決して少なくなく映り込んでしまう、ということに触れます。 「平山」という主人公の名前は、ヴェンダース監督が敬愛する小津安二郎監督の作品人物から取られたものです。(ヴェンダース監督は、小津監督への愛を込めたドキュメンタリー『東京画』(’85)や、『東京物語』(‘53)へのタイトルオマージュとして『リスボン物語』(’95)といった作品も制作されています。ちなみに、平山は鎌倉のお菓子を好んでいますが、これは小津監督が北鎌倉の地に眠っているためです。)  『夢の涯てまでも』では、失明しつつある男が療養のために箱根の旅館を訪れる場面があり、旅館には小津作品を代表する俳優の笠智衆が。ヴェンダース監督にとっての日本的なるものは、ある種、自然の中にある聖域、理想郷として描かれてきました。それが現実の日本を表しているかは焦点ではなく、混沌とした現実に対する拠り所としてそこは存在しているのです。(過度に理想的であるが故に引っ掛かる部分も少なからずありますが、理想との差異に違和感をもった受け手に、現実を考え直す契機を持ちかけているともいえます。)  起きてから寝るまで、一日のルーティンを描き続けた『PERFECT DAYS』は、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』(’16)を想起させるものでもあります。どちらも、いち労働者の慎ましい生活の優しさ、時間の経過とともに少しずつ揺れていく日常を描きます。 時間はただ漠然と流れていくのではありません。止まっているように見えても、止めようとしても、時間の中では常に何かが動いています。変わっていくものはあまりに多すぎる。ともすれば見過ごされ、あるいは目も当てられず、忘れられてしまうような、変わっていくもの/時間の流れを映し出すのが、映画の一つの役割かもしれません。時間は、単なる時間ではなくなっていきます。  変化は時に悲しく、しかしながら、必然です。受け入れられなくとも、受け入れていかなければならない。そこに立ち向かう一つの手段が、平山の繰り返す生活なのではないかと思います。平山は、秩序のある東京を、一人小さく、しなやかに守り続けていきます。秩序とは、作り出す端から崩壊が始まっていくものかもしれません。けれども、平山はきっと日常を止めない。平山が保管する写真缶の日付は「2023年10月」頃まであり、これは映画の撮影時期よりも一年ほど先の日付です。平山は未来を生きていきます。その姿は、永く根をはる木のように、観るものを安心させるのです。 <作品概要> 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか 2023年/日本/124分 ※ 『PERFECT DAYS』チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。

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『PERFECT DAYS』情報その3–小田原シネマ館スタッフアート展示のお知らせ–

劇場内には小田原シネマ館スタッフ作成のイラストと切り絵、劇中写真を使ったコラージュを展示しております。鑑賞に合わせてご覧ください。(コラージュは劇場に来てのお楽しみ!ご来場お待ちしております。) <作品概要> 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか 2023年/日本/124分 ※ 『PERFECT DAYS』チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。

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『PERFECT DAYS』情報その2–小田原シネマ館スタッフおすすめ鑑賞ポイント–

 平山は長距離を移動せず、同じ場所にとどまり続けます。周囲と自分が、その中で揺れていく。しかし、彼の生活にもヴィム・ヴェンダース作品の真髄ともいえるロードムービー的要素が垣間見えます。  まず、車と音楽。多くのヴェンダース作品には乗り物が登場し、音楽が旅を彩ります。劇中で流れる「Perfect Day」は、ルー・リードの曲。ヴェンダース監督作『ベルリン・天使の詩』(’87)は有名ですが、続編の『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』(‘93)には、なんとリード本人が登場する一幕も。  さらに、カメラと写真。ヴェンダース作品を観ると、いつも写真を撮りたくなります。現実は認識した瞬間に過去になっていきますが、それを手に取る形で見られるのが写真の面白さの一つでしょうか。今を撮っているのに、それはもう過去なのです。現実と写真は、どこかずれているかもしれない。それでも、今を確かめ、また、過去をとどめるために、人は写真を撮り続けます。  それから、明確な起承転結がないことも特長です。要約を拒みます。  また、ニコが読むパトリシア・ハイスミス『11の物語』。ハイスミスは、ヴェンダース監督作『アメリカの友人』(’77)の原作者でしたが、ここで再登場。   『PERFECT DAYS』を観て、ヴェンダース監督のロードムービーが気になった方は、ぜひ初期三部作『都会のアリス』(’73)『まわり道』(’75)『さすらい』(’76)を! <作品概要> 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか 2023年/日本/124分 ※ 『PERFECT DAYS』チケットのお求めはオンラインもしくは劇場窓口にてお申し込みください。

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