シネマレター - 小田原シネマ館 | ODAWARA CINEMA
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小田原から始まる“おいしい革命”——食べることが未来を育てる『食べることは生きること ~アリス・ウォータースのおいしい革命~』鑑賞付きイベント決定!
小田原から始まる “おいしい革命”――食べることが未来を育てる。 「食べることは、生きること」 そんなシンプルだけど力強い言葉を、今あらためて考えてみませんか? 5月10日(土) 小田原で映画『食べることは生きること~アリス・ウォータースのおいしい革命~』の上映と、食と教育について語るトークイベント、地元の旬を味わうコラボランチを楽しむ一日が開催されます。 自然とともにある暮らし。子どもたちが土に触れ、育てたものを自分で食べるという体験。 そんな“当たり前”が、私たちの未来を変えていくヒントになるかもしれません。 【日時】5月10日(土) 【場所】小田原シネマ館/ARUYO ODAWARA 【イベント内容】 10:00~小田原シネマ館にて 「オーガニックの母」「おいしい革命家」と呼ばれるアリス・ウォータース。世界中の料理人と教育者に影響を与える彼女が信じる「おいしい革命」とは? 映画上映『食べることは生きること ~アリス・ウォータースのおいしい革命~』 11:30~ARUYO ODAWARにて 地域でつくり・食べ・支えるという循環は小田原でどのくらい実現できているのか? トークイベント 登壇者:小田原市長加藤憲一さん×堀口博子さん(エディブル・スクールヤード・ジャパン) ファシリテーター:深澤里奈子さん(ご縁の杜代表) 12:30~ARUYO ODAWARA内レストランPerteにて ローカルフード小田原の食を体験する 地元コラボランチ 地元の方はもちろん、食や教育、サステナブルな暮らしに興味がある方にも。 心と体を整える一日を過ごしにいらしてください。 ご予約は小田原シネマ館のHPから ※定員がありますので、お早めにどうぞ! ※ランチ付参加券は先着25名 ※完売いたしました。 ※座席数僅かですがトークイベント付き鑑賞券、ご鑑賞のみの通常料金でのご案内は当日窓口にて承ります! オンライン予約や当日以外での窓口の購入はできませんのでご了承ください。 映画『食べることは生きること ~アリス・ウォータースのおいしい革命~』 【作品紹介】 アメリカで初めて、地域の農家と食べ手を直接つなぐフランス料理店「シェ・パニーズ」のオーナー、アリス・ウォータース。レストランの在り方はのちに「地産地消」「ファーマーズ・マーケット」「ファーム・トゥ・テーブル」と発展し、アリスは世界中の料理人と教育者に影響を与え「オーガニックの母」「おいしい革命家」と呼ばれるようになった。 2023年、アリスの集大成となる著書『スローフード宣言~食べることは生きること』の出版1周年を記念して、著者来日ツアーが開催された。アリスが日本の各地を訪れ、学校給食を味わい、大地の守り手である生産者、料理人と触れ合っていく。 66分/日本/2024年/ドキュメンタリー ©2024 アリス映像プロジェクト / Ama No Kaze 【トークイベント登壇者紹介】 加藤憲一 1964年、小田原生まれ。中学2年生までに両親を失うも、小田原高校、京都大学法学部を卒業。 経営戦略、教育、農業、林業、漁業、商業など、様々な現場に携わるかたわら、災害ボランティアや市民活動にも積極的に取り組む。 2008年小田原市長に初当選、以後3期12年を務め、2020年に退任。…
大磯、新潟、海を左手に進みながらそれぞれの孤独が輪郭を帯びる——『胴鳴り』舞台挨拶レポート
映画『胴鳴り』の舞台挨拶が4月25日から5月1日まで連日開催されました! 全日、楫野裕監督が登壇!日替わりで出演者の方々に登壇いただきました。 古屋隆太さん(大森直秀 役) 4月25日~4月27日、4月30日 三谷菜々美さん(西沢光 役) 4月25日~4月27日 小原徳子さん(奥野沙月 役) 4月25日、4月27日、5月1日 吉田庸さん(早川翔 役) 4月27日 平川はる香さん(片桐雪乃 役) 4月27日 笹峯愛さん(西沢真由美 役) 4月30日 今回は4月27日の舞台挨拶の模様をご紹介いたします! 全舞台挨拶の中でも一番ゲストの方の人数が多く、様々な角度から『胴鳴り』について語ってくださいました。是非本編を見てから一読ください! 読んだらもう一度観たくなること間違いなし。 映画『胴鳴り』 【ストーリー】 ある年の夏、新潟で生まれ育ち高校を卒業したばかりの西沢光は母・真由美に黙ってまだ会った事のない父に会う為に1人東京へやってくる。父・大森直秀は大ヒットテレビドラマの脚本家として脚光を浴びている。光はかつて恋人同士であった真由美と直秀の間にできた婚外子である。 突然訪ねてきた娘に戸惑う直秀だったが、娘の存在を知りながら関わろうとしなかった事に罪悪感を抱いていた。直秀は恋人・沙月とのドライブに光を連れていく。大磯の海岸で3人は束の間のときを過ごす… 数日後、新潟へ戻ったはずの光が再び直秀の目の前に現れる。母に会って欲しいという光。直秀は助手席に光を乗せて真由美の待つ新潟へ向かう—— 画像左から平川はる香さん、吉田庸さん、古屋隆太さん、三谷菜々美さん、小原徳子さん、楫野裕監督 司会は楫野監督が務め、お話は途切れることなく和気あいあいとした雰囲気で進みました。 ——古屋さんからざっくり思い入れに残っていることをお願いします。 古屋さん 「沢山ありすぎて! 多分、質問していただければどんな質問でも、その時はこうでしたって面白いエピソードトークができるって自信があるくらい、撮影期間は楽しかったですし、キャスト・スタッフも素敵な人たちばかりで、いい思い出しかないですね。」 平川さん 「ロードムービーがジャンルとして好きで、好きな映画のテイストでした。とにかく車がめっちゃくちゃカッコいい! この規模感(の映画)でリッチな風を感じるのがすごい興奮できて」 ——車について、(持ち主の)直秀はファミリーカーや軽ではないだろうと。とにかく目立つ、画的にカッコいい車。制作の光永さんが見つけて格安で借りられました。乗り心地はどうでした? 古屋さん 「正直良くなかったです。ステアリングも重いし、クラッチの繋ぎもかなり難しかったですし……車内がオイルの臭いなのか排ガスなのか、けむくて。降りるとなんか全身けむいなと」 ——お二人(三谷さん、小原さん)は実際に古屋さんが運転する車に乗っていました。どうでした。ちょうどこの近く、134号線の海沿いを車で走ったシーンがありましたけど。 小原さん 「私は好きでした。危うい感じ?(笑) 今の車は事故っても大丈夫だけどこの車はちょっとぶつかったら死ぬなみたいな。見た目重視の車の中身って感じで、それが無骨で。エアコンのかかりも悪かったじゃないですか。それも楽しくて」 三谷さん 「(古屋さんの)運転がお上手で。ただ助手席に乗って光でいる。本当にただドライブを楽しんでいる感じでした。その期間も積み重ねて直秀といたので、すごい良い時間でした」 ——吉田さん、古屋さん、おふたりは演じてみてどうでしたか? 古屋さん 「吉田庸さん。大好きな役者さんで安心感があって楽しかったです。『公園で遊具を味わってください』という演出指示にも軽やかに滑り台を逆から駆け上がったり」 吉田さん 「あのとき緊張してましたね。あのシーンが撮影で一番最初のシーンで。古屋さんとは元々面識がありましたが、共演するのは初めてで。初めてが重なって。あれ(遊具を味わう)がいいウォーミングアップでした」 ——早川好きですね。飄々としているんだけど、交流もうまい。だけど何を考えているか分からない。心がないっていうか。(一同:笑) この作品の中で一番心が見えない人間ではありますよね。(吉田さんは)何を考えているか分からない役をやらせたらピカイチ。 古屋さん 「平川さんとのシーンもすべてを預けられる安心感が半端なくて。大森直秀という作家のリアリティは、平川さんが支えてくださった」 三谷さん 「エキストラの方が沢山いらっしゃる中で、しーんとしているインタビューになると想像していたら、平川さんの佇まいと『大森さんって』っていう最初の一言が始まった瞬間に場の空気が和やかになって自然と笑いが生まれていました」 平川さん 「エキストラの方たちの反応が良くて、こちらとしても楽しく演じることができました」 小原さん 「直秀をカッコつけさせるインタビュアーとしての手腕もすごかったです」 ——あの時の直秀のうさん臭さが絶妙で。ふたり(直秀と雪乃)のやりとりの中から直秀の、その場では誠実なんだけど、不誠実な部分が出ていました。 ——三谷さんの思い入れに残っていることはどうですか? 三谷さん 「思い出といったら生しらす(☆)なんですけど……(笑) 雷が鳴っているなか、ひとりで暴れているシーンは何回か撮り直したりしていて。雷のタイミングが全部監督が指示していたり、雨も人工的にスタッフの方が降らせていて、素晴らしいコンディションが整っていた。シーンとしては激しめだけど、監督が(淡々と)『はい今雷』と指示していたのが印象に残ってます。全部計算されていてつくられているんだなーというギャップがあるシーンです」 ☆古屋さんが大磯で差し入れしてくれた生しらすがとても美味しかったという出来事。…
割れた器、ぎこちない兄弟関係……「金継ぎ」で本当に修復されるもの——『繕い合う・こと』舞台挨拶レポート
映画『繕い合う・こと』の舞台挨拶が4月12日、13日と連日開催されました! ゲストは両日ともに監督・脚本・主演・編集を務めた長屋和彰さん、プロデューサー・出演を務めた大沢真一郎さん、制作担当の白岡優さん。 今回は4月12日の舞台挨拶の模様をご紹介いたします! 映画『繕い合う・こと』 【ストーリー】 亡き父の跡を継ぎ[金継ぎ師]の道を選んだが、“ある”わだかまりを抱える兄【護】。 対して、これといった目標もなく、父の後を継いだ兄に対して焦りや羨望から苛立ちを覚えている弟【幹】 ある年の暮れ、例年通り大掃除をする為に護の住む実家へと帰省する幹。 幹は掃除の途中で父の遺品が無くなっていることに気が付く。その夜、護を問い質す幹、ぶつかり合う二人。 不器用な兄弟とその周りの人々が織りなす物語。 画像左から白岡優さん、長屋和彰さん、大沢真一郎さん まず長屋さんから制作についてお話いただきました。 2022年の暮れに撮影された本作。破損した器を修復し金粉などで装飾をする伝統技法「金継ぎ」をモチーフにした兄弟関係の修復がテーマの映画。 今回ゲストで来ていただいた3名は皆さん俳優です。皆さんは2018年映画『カメラを止めるな!』の出演者。大沢さんは『カメラを止めるな!』ではプロデューサー役を務めていましたが、この作品で本当にプロデューサーになることに! 白岡さんは主に群馬(倉木宅)の撮影の手伝いをされたとのこと。 ——リモート演出の先駆け? 群馬での撮影時、長屋さんがスマホを失くしてしまうトラブルがあったとのことで・・・ 長屋さん 「今、リモートで監督が演出をするというやり方があるけれど、スマホを失くしたことで現場を離れなければならない事態になった。1日前に絵コンテを書いて『こういう感じで撮ってください!』とお願いして、それから撮ってもらったものを確認して『大丈夫です!』という形でリモート撮影をしてもらって。そういうことで大沢さんが監督したシーンがあります。」 ——英断 本作は2025年1月に新宿K’s cinemaで封切り。小田原シネマ館は3館目の上映館です。 劇場で上映をする以前は数々の海外の映画祭に映画を応募していたとのこと。その結果が芳しくなかったため、日本の映画祭に向けて2023年に追加撮影が行われました。 大沢さん 「元々120分の映画。最初は記者の役で、護に金継ぎのインタビューをするシーンがあって、それが夏の場面だったからそれだけ浮いているような状態だった。そのシーンをまるまるカット。それで1週間をぎゅっと煮詰めた作品になった。監督の英断でしたね。」 長屋さん 「劇中でお母さんの話は出てこないけれど、当初は病院のシーンでしていたんです。ただ実際に生きててそううまいことそんな会話をするかな?と思って。お客さんがそれぞれ考えて補完してくれるだろうと信じてまるまる切って、兄弟や先輩の関係をより強く見せました。」 ——良い映画だなって ここで白岡さんから長屋さんにご質問が。 白岡さん 「定点で引きの画の印象が強いけれど、元々こういう画が撮りたかったのか、それとも脚本を書いてからこういう画にしようと決めたんですか?」 長屋さん 「両方ですね。自分が今まで観てきた映画で観ていて好きだったものがそういうものだったというのもありますし。家の中の画に関しては、亡くなった父親の視点として描きました。霊体で動いたりはせずにじっと見守ってる」 大沢さん 「カメラの高さも父親の身長を意識していて。喧嘩するシーンが遠くで少し見下げる形になって少し違和感があるんです」 白岡さん 「ここに来る前にもう一度観たんですけど、やっぱり良い映画だなって。身内を褒めるようですけど(笑)」 撮影時のトラブルからシーンのこだわりまで語っていただき、あっという間にお時間になってしまいました。まだまだ話し足りていないところがあるそうですが・・・? 長屋さん 「話し足りてないこともたくさんありますが、パンフレットに載っていますのでぜひ!1,000円で販売しています!」 『繕い合う・こと』パンフレット 小田原シネマ館にて販売中!!! 長屋さん、弟・幹役黒住尚生さん、先輩・稲田勝也役菊池豪さんの鼎談の読み応えは鑑賞後の余韻にグッと沁みます。 記念撮影の時間を設けていただき、舞台挨拶は無事終了いたしました。 画像左から白岡優さん、長屋和彰さん、大沢真一郎さん。 『繕い合う・こと』は4/24(木)まで上映中! ※火曜休館日 年末年始のお話ですが、4月の年度初めに観るにもぴったりな作品です。 映し出される静かに流れる時間と人々の交流を観ていると、自ずと家族のことや自分自身のことを見つめ直す大切な時間になりますよ。 <クレジット> 企画・監督・脚本・編集:長屋和彰 プロデューサー:大沢真一郎 出演:長屋和彰、黒住尚生、菊池豪、山本由貴、ふくだみゆき、大沢真一郎、田村彰規、篠原篤、岡田雄樹(声の出演)、藤井圭(声の出演)、ジョルジョデコヤツ(声の出演)…
苦くて熱い人間讃歌……その叫びを聞いてくれよ!『みんな笑え』舞台挨拶レポート
2025年4月5日『みんな笑え』上映後舞台挨拶が開催されました! 映画『みんな笑え』 【ストーリー】 人気もない、人望もない、野心もない、恋人もずっといない、五十歳の最低な落語家、太紋(野辺富三)。ある日売れない若手漫才師・希子(辻凪子)と出会ったことで、太紋は自分の人生を見つめ直していく― 画像左から鈴木太一監督、野辺富三さん ゲストには鈴木太一監督、主演野辺富三さんをお迎えし、進行はプロデューサーのワダシンスケさんが務めました。 舞台挨拶の時間はたっぷりと40分! じっくりとお話を伺うことができた貴重な時間となりました。 ——してやったり 劇中ラストの衣装に身を包んだ野辺さんがお話を始めると、グッと気持ちが前のめりになります。 野辺さん 「2月8日から上映が始まり三か月目に入って、こうして小田原の皆さんにも観ていただけることになってとても嬉しい。 舞台を数多くやってきたけれど、大勢に名前を知られているわけではないので、このポスターだけを観て「落語家のドキュメンタリー?」と思う人もいます。「本当の落語の人?」そう言ってもらうと、してやったりというか、この役をやった甲斐を感じます。 劇場でこうして主演・野辺富三と直接自分でアピールすることができて嬉しいです。」 ——生きてる実感 鈴木監督は各地の劇場で感想を直接書き込んでもらった熱いポスターを上半身に垂らしながらお話をしてくれました 鈴木監督 「上映が始まってから、東京から大阪・名古屋と各地のミニシアターを回っていて、先週は『みんな笑え』舞台挨拶の予定がぽっかりとなかった。それで、え?何のために生きてるの?と思った。(客席一同・笑)だからこうしていると、生きてる実感が湧きます。 この映画は野辺さんともう一人のプロデューサー沖正人さんが20年来の中で、沖さんが野辺さんを主演で世に出したい!この得体の知れない男を!!ということでお声がけいただきました。」 鈴木監督は小田原方面にくるとあることを思い出すとのこと。 なんと、脚本を書くために、野辺富三がどんな人間なのか観察する箱根旅行が、鈴木監督、野辺さん、沖プロデューサーの三人で行われたお話をしていただきました・・! 同日そしてほぼ同時刻に秋田県の映画館【御成座】で辻凪子さんが舞台挨拶を行っているお話に。(映画を観た人ならちょっとわくわくする状況じゃないですか?) ——センスで引っ張ってもらった。 鈴木監督 「濱本希子役・辻凪子さんは元からお笑いが好きで詳しい、高校生の頃から落語をしていた経歴もあります。漫才師役の辻さんに関しては、漫才監修ができなかったけれど、センスで引っ張ってもらいました。もう一人の主役と言っていいです。」 野辺さん 「主人公・斎藤太紋は自分と太一さん(鈴木監督)を足して二で割った人物。ほとんど役作りはしなかった。ワーとかウーとかいう役だけれど、ほぼそのまんまの私。自分じゃないものになってウガー!としているわけではなかった。濱本陽子役・片岡礼子さんや辻さんにどんどんと、ずけずけと壁を取っ払ってもらって、自分はおどおどと助けられた。」 野辺さんの言い草に、ワダさんが「一応、台本はありますからね!?」と客席にフォローを入れて笑いが起きます。 片岡さんの演技のお話になります。片岡さんは自分が納得していないと台詞が出てこないという、役者の技術の中で熱い気持ちで役に向き合っている方とのこと。 そこから話が繋がって、鈴木監督が周りの意見を全部聞きながら制作をするお話になりました。全意見を求めて、脚本は十何回も書き直したとのこと! ——独りよがりにならないように 鈴木監督 「何度映画を作って、独りよがりにならないようにしても、どうしても『この目線が抜けていたな』と思うからこそです。」 ここでお客さんから質問を募ることに。 【メインとなる落語の演目として、『抜け雀』『大工調べ』をチョイスした理由】 ワダプロデューサーを中心に回答いただきました。 まずキャスティングが野辺さんの次に父・斎藤勘造役の渡辺哲さんの順で決まり、様々な演目を思案したところ、『大工調べ』啖呵を切るのが渡辺さんらしい!という話になったこと、そして『大工調べ』の名調子が言えなくなってしまうというショッキングさでチョイス。 そして『抜け雀』は父子の話、芸事の話として勘造と太紋にリンクしているからチョイスしたとのことでした。 ——野辺富三のドキュメンタリー 落語の演目のお話から撮影が実際の浅草演芸ホールで行われた話に繋がります。 朝早くからお客さんが入るまでの二時間あるかないかのスケジュールで行われたとのこと。 撮り順としては、鈴木監督が考えた太紋の新作落語の撮影が一番初めで・・・ 野辺さん 「浅草演芸ホールの高座に座ると、頭が真っ白になってしまう。俳優として脚本を頭に入れて言えるようにしているはずなのに。浅草演芸ホールができてから何十年と、名だたる師匠たちがやってきた高座で、独特の空気、緊張感、時間を消費していく焦りで何も言えなくなってしまった。そして最後の撮影がラストの『抜け雀』だった。太紋と同じような道、同じような心境を辿って役に向き合うことができました。」 鈴木監督 「そういう意味では野辺富三のドキュメンタリーと言えるかも?」 ドキュメンタリーと勘違いされる話から始まって、ドキュメンタリーなのかも?という見事な着地でした。 最後に写真撮影、そして恒例の「みんな」「笑え」コールアンドレスポンスで舞台挨拶は終了しました! 画像左から鈴木監督、野辺さん 野辺さんはMW(みんな笑え)ポーズをしています。出す指を四本ずつにしちゃったお茶目な瞬間。 終了後もご来場くださったお客様の話をひとりひとり伺ったり記念撮影をしたりと贅沢な時間になりました・・! 「この映画自体が、落語だね」お客さんの感想が直接聞けるのもまた貴重な時間です。…
【小田原シネマ館ができるまで——映画館をつくるとは?小田原シネマ館設立のリアルストーリー】トークイベント付上映『キノ・ライカ小さな町の映画館』レポート
2025年3月29日、小田原シネマ館1周年記念トークイベント付上映「小田原シネマ館ができるまで——映画館をつくるとは?小田原シネマ館設立のリアルストーリー」が開催されました! 上映作品は『キノ・ライカ 小さな町の映画館』フィンランドの有名監督アキ・カウリスマキとその仲間たちが自らの手で映画館を造る過程を描いたドキュメンタリー映画です。フィンランドの小さな町カルッキラに映画館が出来上がっていく。その様子が淡々と描かれながら、カルッキラのユニークな人々が映し出される構成はまるで映画館が単なる建築物ではなく人々の息吹によって動き出す生命体のように感じてきます。 トークイベントのゲストは、小田原シネマ館のリノベーション工事を務めた、小田原市にある不動産&建築社旧三福不動産代表取締役の山居是文さんをお迎えし、小田原シネマ株式会社社長の古川達高、小田原シネマ館館長の鈴木伸幸が【小田原シネマ館設立のリアルストーリー】を語り合いました。小田原シネマ館発起人の故・蓑宮武夫氏の写真も一緒に並びます。司会・進行は蓑宮武夫氏の息子であり、小田原シネマ館支配人の蓑宮大介です。 右から鈴木館長、山居さん、古川社長、蓑宮氏の写真 当日のシアターは雨というあいにくの天気にも関わらずほぼ満席!普段から映画館をご利用になられている小田原シネマ館会員の方や、小田原シネマ館を気にしてくださっている地域の方々、小田原シネマ株式会社の株主の方、そしてこのイベントをきっかけにはじめてご来館してくださった方の顔を拝見できてとても嬉しかったです。 トークイベントは場所を変えて小田原シネマ館の上階にあるレストラン【LEGALO】で行われました。 さてトークイベントでは何が語られたのでしょうか……!? ※【リアルストーリー】のため、ここでは書けない、ぶっちゃけた話もたくさんある場でした!ご来場くださった皆様におかれましてはそっと胸にしまってくださいね……! それぞれの自己紹介が終わった後、鈴木館長を中心に小田原シネマ館の発足から語られます。 2022年1月 蓑宮武夫氏「映画館を造りたい!」と発案 (古川社長からは「いや、発声だ」とツッコミ) かつて小田原市には8つの映画館がありましたが、徐々に減少。小田原出身の名優、故・阿藤快さん主導で開催されていた小田原シネマ祭も団体が無くなってしまいました。 古川社長は当初「どうして映画館が潰れてるか分かる?儲からないからだよ」と反対。 蓑宮氏は「どうしても造りたい!」古川社長は「できないっての!」の応酬が幾度となくあったそうですが、蓑宮氏が不動産を取得したことで「やるしかない」と一気に映画館設立の方向に舵を切ることなりました。 山居さんは2023年2月頃に合流。 山居さんは「正直に言うと……(ここに映画館を造るなんて)無理」と伝えたそうですが、映画館を造るプロジェクトに関わることなんて生きていてそうそうない、できる方法を模索するしかないと何とか前向きに引き受けてくださいました。 なんといっても、小田原の電気屋さんも水道屋さんも大工さんも映画館をつくるのははじめて!小田原シネマ館関係者の定例会の他にも工事業者の定例会を幾度と重ねたとのことです。 着工している最中に3/20のオープンが決定。 完成の目処が立つかどうかという段階の2023年10月、発起人の蓑宮氏が急逝されます。 古川社長は周りから「工事止めるの・・・?」とよく聞かれたそうですが、その度に「やめられない。やるしかないだろ!」と伝えていたそうです。 古川社長「みのさん(蓑宮武夫氏)の考えは、『映画をテレビや電子端末で見ることは、花火をテレビで見るのと一緒だ』だった。自分も『確かに花火をテレビで見ても綺麗だなと思ってもそれ以上はないな』としょっちゅうそんな話をしていた。『あの映画いいね、この映画いいね』なんて話しながら、だんだん私財を投げうってでもそういう文化を小田原に伝えて引き継いでいかないといけないと思うようになった。それは協力者、このふたり(山居さん・鈴木館長)や株主、小田原シネマ館会員の皆さんがいなければ維持・継続はできない。映画も大事だし、今回の上映した映画でもあったけど、映画が終わったあとに映画を共有する時間も大事だと思ってますし、それを継続していきたい・・・っていきなりまとめに入っちゃいましたけど(笑)」 古川社長の熱い言葉のあと、観客の皆さんから質問を募りました。 マイクを持って回答をする山居さん 【小田原シネマ館の外観はどのように決められたんですか?ニュー・シネマ・パラダイスに雰囲気が似てるというか】 古川社長「いい質問ですね」 山居さん「せっかく古いビルをリノベーションするにあたって、今っぽい感じではなくてレトロな雰囲気にすることでみのさん等の想いも伝わって、街の人にも受け入れてもらいやすいじゃないかと思い、こういう風に左官していった経緯があります。」 古川社長「良いビルを手に入れたねってよく言われたけど、この雰囲気は元々はなかったんです」 【映画のセレクトの基準はどのようにしているんですか?】 蓑宮支配人「一日映画館にいても飽きないように、名作、準新作、音楽系と多種多様にピックアップしています」 鈴木館長「新作だけでも映画はいっぱいある。小田原の人も結構ミニシアター系の映画を気にしているので東京のミニシアターの傾向を気にしてる」 古川社長「一か月に一回70代の役員から20代のスタッフでコンテンツ会議を行っている。提案は基本否定しない。いろいろやってみようとチャレンジしている」 そして最後のご挨拶・・・ 鈴木館長「文化の発信基地とは言われているが、やはりお客さんが来てくれないとなかなか成り立たない。それでも発信し続けないとお客さんはきてくれない。とにかく続けていくしかないと思ってます。皆さんぜひ足を運んで、映画、ばんばん見てください!」 山居さん「今日の映画を観て、序盤の工場の跡地で映画館の座席の木組を組んでいるシーンを観て、『ああ・・・こうやって始まったなあ・・・』とすごく感慨深くて、グッときました。こういうプロジェクトに関わることができて本当に光栄だと思いますし、みのさんたちの想いが町の皆さんに伝わっていくといいなあと思いますので、これからもできる範囲で後押ししたいと思います」 古川社長「とにかく回さないといけない一年だった。もう一年経っちゃったんだ・・と思ったときに改めて最初なんでこんなことやり始めたんだろうと考えて、小田原の文化の一助となるように繋がっていけばいいなと。それは一人でできることじゃないので皆さんと一緒に。そういうことを、最近、真面目に考えられるようになりました。継続することが僕らの仕事なので是非皆さんには引き続きご贔屓にしていただければと思います。」 蓑宮支配人「最後に、実際に映画館を造った棟梁にインタビューをしてコメントをいただきましたのでご紹介します。 『住居ビルを映画館にすると初めて聞いたとき正直驚きました。私は小田原生まれ小田原育ちだから街に映画館がまたできるという親父さん(蓑宮武夫氏)の気持ちがとっても嬉しかった。解体作業から何から何まで大変だったけど、私の人生で最高の傑作であることは間違いないです』 この方の想いや、みなさんのお力をいただいて、この先も一生懸命やっていきたいと思いますので引き続きご愛顧いただければ幸いです。本日はお越しいただき誠にありがとうございました!」 こうしてトークイベントが終了いたしました。 他にも、映画館経験者がゼロのなかでの苦労や今でこそ話せるような話、引き続き苦悩しているところなどたっぷりと一時間弱リアルに語っていました。 しかし、こうして足を運んでくださるお客様がいるからこそ、笑いを交えながら明るくお話をすることができました。 今回のイベントをきっかけに、より小田原シネマ館や映画という文化が小田原の街や小田原の人々にとって身近な場所になることができたら幸いです。 これからも小田原シネマ館では様々なイベントを行う予定ですので、ぜひご参加くださいね! 小田原シネマ館では4/10(木)まで『キノ・ライカ 小さな街の映画館』を上映中です! 座る座席や目の前のスクリーン、四方を囲む壁や床、天井にも想いを馳せながら観てみてください。 ※4/5(土)、4/8(火)休映日 「映画館は、ただ映画を鑑賞するだけの場ではない。映画を観た後でお酒を飲みながら語り合ったり、映画を観なくてもそこに来るだけで文化の香りに触れることができる。人々の出会いや文化とのふれあい。そんな「第三の場」にこれから映画館はしていく必要があるのだと思います。」 蓑宮武夫著『いまこそ人生で必要なことは映画から学ぼう』p38より引用 右から蓑宮支配人、山居さん、蓑宮氏の写真、古川社長、鈴木館長 主催:小田原シネマ館 運営協力:FM小田原株式会社 /…
小田原ふるさと大使 富野由悠季監督作品『ザブングルグラフィティ』4/25~5/8上映決定!!
<『ザブングルグラフィティ』上映決定!> 昨年2024年11月1日(金)~11月7日(木)に開催いたしました小田原ふるさと大使富野由悠季監督生誕記念上映『伝説巨神イデオン 接触篇・発動篇』にて実施しておりましたご来場者アンケートにて、多くの上映リクエストをいただいた『ザブングルグラフィティ』。 このたび、4月25日(金)~5月8日(木)の期間、小田原シネマ館にて上映することが決定いたしました! 皆様のご来館をお待ちしております!! <作品紹介> 『ザブングルグラフィティ』 Ⓒ創通・サンライズ 君は走るか、俺たちゃ走る! TVシリーズ『戦闘メカ ザブングル』の総集編映画化。 ストーリー 荒野の惑星ゾラに生きる人々は、「三日間の掟」を唯一絶対のルールとして暮らしていた。殺しも盗みも3日逃げきればお咎めなし。しかし、少年ジロン・アモスは、3日を過ぎても両親の復讐を諦めない。交易商人の娘エルチや、少年野盗団の少女ラグら、彼に出会った人々は次々にその「こだわる心」に巻きこまれ、やがてそれはゾラ全体を揺るがす流れへと拡大していった。 1983年/84分 原作:富野喜幸(現・富野由悠季)、鈴木良武 監督:富野喜幸(現・富野由悠季) 脚本:五武冬史、吉川惣司、荒木芳久、伊東恒久 キャラクターデザイン:湖川友謙 メカニカルデザイン:大河原邦男 メカニカル設定:出渕 裕 構成演出:菊池一仁 音楽:馬飼野康二 ※ 各上映回は40席限定となります。 ※ チケットのお求めはオンライン(クレジットカードのみ)もしくは劇場窓口(現金のみ)にてお申し込みください。 ※予約開始は上映日の二週間前から随時更新を予定しています。 主催:小田原シネマ館 運営協力:FM小田原株式会社 / タウンニュース / 一般社団法人カフネ
『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』舞台挨拶レポート
2025年3月6日 舞台挨拶 『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』 3月6日、佐藤そのみ監督の舞台挨拶が小田原シネマ館で行われました。 当日は多くのお客様にお集まりいただき、客席はほぼ満席でした。 『春をかさねて』は東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市大川地区を舞台に、震災で妹を失った2人の女子中学生の繊細な心の揺れをみずみずしく描いた作品です。2019年に製作されました。監督は日本芸術大学映画学科を出ており、小学校6年生の頃から絵や小説を書くのが好きでいつか自分の生まれ育った大川地区で映画をとりたいと思っていたそうです。 そして、2011年東日本大震災。 監督も、小学校2年生だった妹さんを失ってしまったそうです。 震災から8年後、いつか大好きな大川地区で映画がとりたいという思いが蘇り、それならば震災をもとに映画を作ろうと決心したそうです。 『春をかさねて』は震災で妹を亡くした14歳の祐未役を演じた斎藤小枝さんは石巻市出身であり、マスコミ役の方は当時震災でニュースを報道した本当のマスコミの方たちだそうです。そして祐未のお父さん役の方は実際に娘さんを亡くされていて、彼の劇中のセリフはご自身の言葉であったそうです。 祐未の幼なじみで同じく妹を亡くしたれい役の50%は監督ご自身が投影されているとのことでした。 そしてこの物語では友情が描かれています。監督は、震災後に人と人との間に距離ができてしまったと感じておりました。そんな人間関係を、映画の中では友人同士の仲直りという形で描かれており、ここにも監督の思いが詰まっています。 『あなたの瞳に話せたら』こちらは監督の卒業制作で作られた作品でした。 『春をかさねて』で描ききれなかった部分がドキュメンタリーとして作られています。 この作品は手紙を主軸に描かれています。 当時マスコミの方に何度もカメラをむけられたこと、手紙の方が亡くなった方の生前がより思い浮かぶのではないかと手紙をテーマにしたそうです。 また撮影は台風の被害にあわれた地域にも足を運んだそうです。 監督は地元の人を傷つけないか、という思いからこの作品を2年間封印していたそうです。しかしだんだんと周りから上映希望があり考えが変わり上映に至ったということです。 【お客様からの質問】 Q:遺族の方で手紙をかけないという方はいませんでしたか A:未だにおもてに出られない、手紙は書けないという方がいました。 Q:観光で行こうと思うが受け入れてくれるでしょうか A:人それぞれでまだ受け入れられない人もいます。 私(監督)はどんどん来てほしい。元々は被災地ではないしたくさんの人にこの町の魅力を知ってほしいです。 Q:今後の活動は A:30分短編の『スリーピング・スワン』という作品が公開予定です。 こちらは35歳以下対象の監督がオーディションを受けて選ばれたのち、プロのスタッフさんに撮影していただきました。 短い時間でしたがとても貴重なお話を聞くことができました。当時、人との間に距離ができてしまったというお話がありましたが、人は辛いことにあうと心の安定がとれなくなってしまいます。そしていつの間にか人との間にも距離が…。もちろんみながみなではないかもしれませんが 今もどこかで自然災害はおきています。いつ自分自身にふりかかるかもわかりません。 また災害にあわれた方々の気持ちはわかろうと思ってもわかるものではありません。 しかし記憶に残すことはできます。 こうして映画として そして画面を通して人の痛みや傷を少しでも感じとれないでしょうか 佐藤そのみ監督、大川地区の皆様ありがとうございました。 3月11日祈りを込めて 登壇中の佐藤監督
【スタッフの映画話】『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』
当館スタッフが思うことを綴るシネマレター、今回は佐藤そのみ監督作『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』についての一篇です。本作は、佐藤監督が大学時代に制作されたもので、 2011 年 3 月 11 日に起きた東日本大震災における被災地の人々をフィクションとドキュメンタリーの手法で描いています。 〈留めること、前に進むこと〉 『春をかさねて』で印象的なのは、中学生の祐未とれいがぶつかり合う場面。亡くした妹への想いを気丈な言葉で取材者に語る祐未と、ボランティアの大学生に恋をするれい。一見すると、二人は対比を生み出す関係にあると捉えることができます。しかし、彼女たちは、震災を生き残った者が楽しく日常を過ごすことへの葛藤を共に抱えているのです。 震災の先を生きるということは、亡くなった人がどうしたって新しく経験できないことを、自分たちは経験できてしまうということ。自分の一歩一歩が、亡くなった人の持っていただろう未来への可能性というものの死を縁取っていってしまう。 さらには傷を重ねるように、全員に等しく責任のようなものを強いてしまう。その原因の一つは、周囲からの視線を当事者同士の間で内面化してしまうところにあるのかもしれません。 れいには“被災者のお手本”のように映った祐未。ところがその後、「今の自分に、妹はどんな言葉をかけてくれると思うか」と記者から問われた際には言葉を詰まらせます。メディアや被災地には、伝え続ける務めがあるでしょう。けれども時に、どうしてそんなことを答えさせようとするのだろう、というような質問が投げかけられる。その時、祐未のような人物ならば、淀みなく返してしまうことももしかするとできたかもしれない。記者が期待するような、“前向きな”回答を。 しかしながら、それをしなかったのは祐未の大きな意思だと思います。記者のあの質問に答えることは、必要以上に自分の人生を亡き妹に縛りつけること、それを受け入れることと同義だったのではないかと思うのです。 当時に心を留め続けることは、震災やそこにいた人々を風化させないということです。けれども、そうして伝え続けることには、時折負担がかかる。時間が経つほどに亡くなった人との歳の差は離れていきますが、それは、季節を重ねるごとに彼らを思い出す回数が積み重なっていくことでもある。留めることと前に進むことは、同じ方向にあるものなのではないかと思います。 『あなたの瞳に話せたら』では、書簡形式に話す「私」が、台風被災地のボランティアに参加した時のことを回想します。そして、想像よりも遥かに深刻な状況やその想像の至らなさを痛感し、 ——「どんな顔をしても、間違っている気がした」 と言います。ここにあるのは、被災者でもある「私」の、記者としての一面。内部と外部の両面やその境界に立って、さまざまな側面から心情が描写されています。「どんな顔をしても間違っている」というのは、どこまでもその通りなのだと思います。この場面では他者に対してそう感じるわけですが、親しい人や自分自身に対してでさえも同じことでしょう。 正解がない中でも時間は進んでいきます。ただ、正解がないなら、間違いもないかもしれない。何かを言葉や映像に残し、紡ぎ続けることへの希望の眼差しが、「あなたの瞳に話せたら」という題名に繋がっていくのだろうと思います。 『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』3/13(木)まで上映中! ぜひ劇場にて、お待ちしております。パンフレットも販売中です。
【スタッフの映画話】『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』
当館スタッフが思うことを綴るシネマレター、今回はチャンドラー・レヴァック監督作『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』についての一篇です。レヴァック監督は本作で長編デビュー。自伝的な内容を、自身の性別とは異なる青年男子に仮託して描いています。 〈痛くて愛しい映画オタク!〉 ——「あなたは自分みたいなオタクが、世界の中心だと信じてる」 主人公ローレンスがアルバイト先であるレンタルビデオ店の施錠を忘れて、店長アラナとの信頼に傷が入る場面。引用したのは、そこでアラナがローレンスに放った言葉です。 映画が好きで好きで、映画を見ていない日は人生の一部が欠けたように感じるとまで語る主人公。しかし、映画の話となれば自分の好きな作品について捲し立て、不注意な言動で他者を見下し傷つけてしまう。なぜなら、映画を一番理解しているのは自分だと思っているから! 映画に限らずとも、何かに熱中したことのある人なら思い当たる節があるのではないでしょうか。あなたも私も皆々みんな、ローレンスだったかもしれません……。何かを理解しきることなど、誰にとっても不可能であるにかかわらず。 映画を観るとき、基本的に作品と自分は一対一の関係です。観ていると、自分も何か大きな力を持ったような幻想に包まれることがあります。また、気に入った作品を見つけたとき、世界で自分だけがそれを知っているような特別な気持ちになることも。 〈レンタルビデオというメディア〉 本作では2000年代のレンタルビデオ最盛期が描かれますが、インターネット上での配信が浸透してきた現代では、映画を一人きりで観る方法がとても身近になってしまいました。暗い部屋に一人閉じこもり、誰も介さず1日に数本の作品を観ることができてしまう。 映画と観客の関係は一対一と述べましたが、映画館で観るのと自室で画面をクリックして観るのとでは大きく違うのです。 レンタルビデオという形式もまた映画館と似ていて、映画館やビデオ屋へ行くこと自体が、ある種コミュニティへの帰属のようなものを感じさせてくれます。本作においては、ビデオ屋の客と店員の会話が場面を彩りました。アルゴリズムにおすすめされるのと、ビデオ屋でたまたま目についたものを手に取るというのも全く別物。作品を自分の手で棚から選ぶところも含めて、一つの体験です。 配信が普及する時代に依然として映画館という鑑賞方法が残っているのには、やはり意味があるのだと思います。メディアや個人の興味の多様化によって、本当の意味で他者と体験を共有することが希薄になってきた現代でこそ、映画館は新しい価値を生み出すことができるかもしれません。もう二度と会わないかもしれない人と、同じ時間に同じ空間で一つのものを観ている、というのは改めて考えると不思議です。 〈映画を通じて・・〉 ローレンスのように、孤独や不安や無力から自分を守る唯一の術が映画だという人も少なくないでしょう。映画鑑賞はその密な求心力ゆえに、個人が殻に籠ることをどこまででも可能にしてしまいます。 けれども、映画は制作から観客の元に届くまで、たくさんの人によって成り立っている。そしてまた、新たに人と人とを繋げていくことができる。というのが、本作の大きなテーマなのではないでしょうか。そしてここには、ローレンスが同じクラスの女生徒を排除しようとしたような、映画界にあるホモソーシャル的構造への確かな批判も絡められています。 本作の最終場面において、ローレンスは寮の自室の壁に『マグノリアの花たち』のポスターを貼っていますね。あれだけ自分の好きな映画を語っていた青年が、他者に勧められた映画のポスターを飾っている。そして、それをきっかけに同級生との会話が生まれる。 本作のポスターはピザを食べながらぼんやりと何かを見つめるローレンスの姿を切り取っていますが、本編を観ればその視線の先にあるのはアラナだとわかります。そこには、映画を通じて自分が作者や登場人物と対話するように、映画が他者や社会との対話を切り開いてくれることへの希望が込められていると思うのです。 『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』2/27(木)まで上映中! 当館では上映終了間近ですが、ぜひ劇場にてローレンスの成長を見届けてください。
【舞台挨拶レポ】『ドーバーばばぁ2 〜つなぐ〜』
中島久枝監督作『ドーバーばばぁ2 〜つなぐ〜』舞台挨拶の模様をお届け! 1/25(土)14:40~の回上映後、当館にて『ドーバーばばぁ2 〜つなぐ〜』舞台挨拶が行われました。 当日の登壇者は中島久枝監督、そして、ドーバー海峡に挑んだチーム織姫の大河内二三子さん、原田京子さん、田村里江さん、野田照美さん、中田律子さん。野田さんと中田さんは客席から参加されました。 当日のお客さんは30名。鑑賞を終えた会場内も一つの遠泳チームに加わったような気持ちで、明るいお人柄の皆さんの登場とともに賑やかな舞台挨拶になりました。 〈制作に込められた想い・・〉 今作は、前作『ドーバーばばぁ 織姫たちの挑戦』から13年の月日が流れています。本当は10年目で何かやろうと思っていたそうですが、新型コロナウイルスの影響により3年間延期。織姫たち個人も、それぞれ家庭や病などの問題に苛まれました。 そして今回、新しく若いメンバーも加わり、81〜20歳、「ばばぁ率50%」の『ドーバーばばぁ2』が生まれました。 映画は2時間半超えの大作。中島監督ご自身も、「長すぎたのではないか」と心残りに思われていたそう。 しかし、「これ以上縮められないというところまで、フィルムに収めてもらって本当に感動している」と原田さんは言います。 映画制作の話はまず、チームのリーダーである大河内さんの元に届きました。 大河内さんは、はじめに中島監督から「自分のやっていることを全て、記録にした方がいい」と言われた際、「(他の人は)興味ないんじゃないの?」と思っていたそう。 生活そのままを映画にして、はたして面白いのかと。 けれども、やがて、中島監督が来るときだけは家の掃除もせず、ありのままの姿を撮影してもらおうと覚悟を決めました。大河内さんは、映画の中で「自分自身の10何年間のすべてを晒している」と言います。 一切飾り立てることなく、実直に海に挑んだものたちの姿が切り取られています。 田村さんは、海の過酷さを語ります。 「フィルムの中だけを観ていると、あのくらいなら私も泳げるわ、と思うかもしれない。でも、実際には大潮で流れがとても速く流されそうになる」 そうした大変さの中で、「『〜つなぐ〜』とタイトルにもあるように、繋いだこと自体がすごいことで、完泳できてよかった」と。 〈織姫たちの普段や今後、舞台裏話・・〉 ここで、お客さんからの質問の一部を紹介します。 「練習はどこでやっているの?」 ——「スイミングスクールでレッスン。自主練はせず、多いときで1500m泳ぐ」 「ドーバーばばぁたちの次はあるの?」 ——「今後は、なるべく温かい海で、無理のない遠泳を続けるつもり」 また、お客さんから「家庭や環境の変化を乗り越えて泳ぎきった姿に感動した」との感想もいただきました。(ちなみに、上映後に回収したアンケートでは、「上映時間の長さは気にならなかった」という方がほとんどでした。) ドーバー海峡横断は、フランス、イギリス、と国境を越えて行われました。しかし、入国審査はしていなかったのだとか。そのため、密入国者と捉えられる事態にも(!) 入国審査をしていないわけですから、全員が岸に上がることはできません。泳いで岸に辿り着いた代表者は、1人5分ほどの限られた滞在時間で、みんなのために海岸の石を水着のお尻に入れて持ち帰ります。そうしてまた、次の人にバトンを繋いでいくのです。 帰りの入管でも30分近く足止めされてしまったのだそう。泳ぎ以外の部分も過酷です。 中島監督と原田さん 田村さんと大河内さん ご登壇・ご参加くださった皆さま、誠にありがとうございました。 ドーバーばばぁ、まだまだ上映中! 上映は2/6(木)まで。観ると元気をもらえますよ。寒さが続きますが、ご来館お待ちしています!